大きな地震、台風による浸水、豪雨による土砂災害。
オフィスが使えなくなり、従業員が出社できない。あるいは、災害によって従業員が帰宅困難になる。
―そんな事態は、私たちの職場にいつ起きてもおかしくありません。
BCP(事業継続計画)における防災の考え方は、「被害をゼロにすること」ではなく、「被害を受けても、重要な事業を止めずに早期復旧する」ことにあります。
BCPとは、防災の先にあるもの
中小企業庁は、BCPを「緊急事態が起きても事業資産の損失を抑えながら、中核事業を継続・早期復旧するための計画」と定義しています。 防災が「被害を防ぐこと」を目的とするのに対し、BCPは「事業を止めないこと」を重視することが特徴です。
内閣府の事業継続ガイドラインでは、「地震が来たらどうするか」ではなく、「拠点が使えなくなったらどうするか」という起きることから逆算して備えることの重要性が示されています。原因が地震・水害・停電であっても、「人が来られない」「モノが届かない」「システムが止まる」「拠点が使えない」といった課題は共通しています。
原因ごとに対策を分けるより、この「起きること」からまとめて備えたほうが、効率よく強いBCPを構築できます。
BCPに必要な5つの視点
BCPでは、以下の5つの視点で対策を進めることが推奨されています。今回は、このうちオフィスづくりのプロとして「オフィス環境」に焦点を当てて具体的な備えを解説します。
- 人的リソース
- 資金
- 組織体制
- 情報管理
- オフィス環境 ★今回のテーマ
※「オフィス環境の防災(未然の防止)」は、災害が発生した後に「最短で事業を復旧させる(BCP)」ためのスタートラインとなる、重要な土台です。
オフィスでできる具体的な備え
日本オフィス家具協会(JOIFA)によると、オフィスづくりは「ゾーニング(機能ごとの配置)→ 什器の選定 → レイアウト」という順番で決まるのが一般的です。この各段階で地震対策を取り入れることで、安全性を高めることができます。
① 家具の固定(レイアウトと施工)
地震によるケガの原因のうち、3〜5割は家具の転倒・落下・移動によるものです(東京消防庁調べ)。熊本地震(震度7が2回発生)でも、家具類の転倒による被害が数多く報告されています。
配置の工夫:
背の高い書庫やキャビネットは、避難経路・デスク周り・オフィスの中央には配置しない。
家具の固定:
背の高いキャビネットは壁への固定、または床への施工が安全です。壁だけに頼るのは避ける(コンクリート壁以外はあまり強度が期待できません)。ただし、ビルによっては「床への穴あけ工事が禁止されている」「床下に重要な配線や配管が通っている」などの理由で固定できない場合があるため、事前にビルの管理会社やオーナーへの確認が必須です。
専門家への依頼:
固定工事は、ビル構造確認も含めて実績のある専門業者へ相談をする。
防災機能を兼ねた什器の導入例
- 書庫型防災用品保管庫:
水・食料・防災グッズをまとめて保管。
50人分なら「幅900×高さ2000×奥行450mm」の保管庫が3台ほどが目安。 - エレベーター内設置型防災用品保管箱:
エレベーターの非常停止による閉じ込めに備える。 - 天つなぎパーツ:
背の高い書架同士の上部を専用部品で連結し、安定性を高める。
② デスクまわりのルール(日常の運用)
- 離席時は必ず椅子を机の中にしまう。
- デスクの下は私物や荷物を置かず、緊急避難スペース(身を守る空間)として常に空けておく(どうしても置く場合は、専用のデスク下収納家具を使う)。
- パソコンなどのOA機器は、ベルト、ワイヤー、耐震ゲルで確実に固定する。
- 床をカーペットにしておく。物の滑り止めや、揺れが収まるまでの一時的な避難(床に伏せる)の際に役立ちます。
- 重要書類やデータのバックアップは、耐火性能のある場所に保管する。
- ガラス食器や薬品類は、ビジネスキッチンや専用の薬品保管庫にまとめておき、割れて散乱するリスクを減らす。
③ 避難経路の確保
- 通路の幅は1.2m以上を目安に確保する。
- 書類や荷物を通路や書庫の上に絶対に置かない(落下物になり、避難の妨げにもなります)。
- 脱出や救助活動に使う工具類(バールやジャッキなど)は、日頃から整理整頓・点検をしておく。
④ 備蓄品の準備
東京都の条例(平成25年施行)では、従業員3日分の飲料水・食料の備蓄が努力義務とされています。水・食料に加え、ポータブルバッテリー、懐中電灯、防寒具も必須です。
- 見落とされがちな備蓄品:内閣府の調査によると、中堅企業では「簡易トイレ」や「毛布」の備蓄が、飲料水・食料に比べて手薄になりがちという結果が出ています。
- 帰宅困難者対策:従業員以外の帰宅困難者向けに備蓄を用意している企業は、全体の3割程度にとどまります。自社の周辺地域で発生しうる帰宅困難者の受け入れ(企業の社会的責任)も視野に入れておくと安心です。
- 管理:フロアごとに保管場所を明確に決め、賞味期限は定期的にチェックする仕組みを作る。
⑤ 安否確認手段の把握
勤務時間外や休日に災害が起きても会社と連絡が取れるよう、社内の安否確認システムを一度実際に使ってテストしておきましょう。
あわせて、責任者と連絡が取れない場合に「誰が代わりに判断するか(意思決定の代行順位)」も決めておくと安心です。通信が途絶えた状況を想定した訓練は、実際にやってみないと本当の弱点が見えてきません。
まとめ
一人ひとりの意識が、組織の回復力になる
災害時、最初に頼りになるのは、マニュアルよりも「日頃からの心構え」と「安全な環境」です。
次回の②編では、近年ますますリスクが高まっている「サイバー攻撃・システム障害」への備えについて取り上げます。ぜひあわせてご一読ください。
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_c/bcpgl_01_1.html
https://www.joifa.or.jp/useful/earthquake.html